こんちゃ!アサミヤです。
今回ご紹介するのはスペイン語映画の『誰もがそれを知っている』です。
公開は6/1なのですが、ありがたいことに試写会でいち早く鑑賞させていただきました。
監督は「別離」や「セールスマン」で知られるアスガー・ファルハディ。
重厚な人間模様を描く監督として有名なんですが、恥ずかしながら私はひとつも鑑賞したことがなかったのと、どちらかというと劣悪B級&Z級作品ばかり見ているような人間ですので、そんな重厚そうな作品、うちにレビューできるんやろか・・・と不安だったんですが・・・
とっても面白かったです。
スペインのカラッとした風土を舞台に、とある誘拐事件をきっかけに突如として湿度を帯びはじめる、家族の複雑な人間模様が繊細に描かれていて、一気に引き込まれてしまいました。
作品が素晴らしい分、相変わらずレビューの出来については不安ばかりですが、まだまだアスガー・ファルディ監督作品への認知度が低い我が国のみなさまにも良さを知っていただけるよう、少ない語彙力を駆使して見所を解説していきたいと思います!
あっ、ネタバレなしなんで、安心してお読みくださいませ。
映画『誰もがそれを知っている』概要・あらすじ・キャスト
概要
「別離」「セールスマン」でアカデミー外国語映画賞を2度受賞しているほか、カンヌやベルリンといった国際映画祭でも高い評価を受けているイランの名匠アスガー・ファルハディが、スペインの田舎町を舞台に全編スペイン語で撮り上げたミステリードラマ。主演をペネロペ・クルスとハビエル・バルデムが務め、実生活で夫婦の2人が共演した。(映画.comより)
あらすじ
アルゼンチンで夫と2人の子どもと暮らすラウラが、妹アナの結婚式に出席するため、故郷スペインの小さな村に子どもたちを連れて帰ってくる。地元でワイン農園を営む幼なじみのパコや家族と再会し、ともに喜ばしい日を迎えるラウラたちだったが、結婚式のアフターパーティのさなか、ラウラの娘イレーネが姿を消してしまう。やがて何者かから巨額の身代金を要求するメールが届き、イレーネが誘拐されたことが判明。それぞれが事件解決のために奔走するなかで、家族の間にも疑心暗鬼が広がり、長年に隠されていた秘密があらわになっていく。(映画.comより)
監督
監督・脚本:アスガー・ファルハディ
キャスト
※みんな顔が濃くて見分けがつかないのと、人間関係を把握するのに時間がかかるのでいつもよりもしっかりめにご紹介しています。
ペネロペ・クルス:ラウラ
アルゼンチンで夫と子供二人と暮らしているが、妹の結婚式のために故郷スペインに帰郷する。
三人姉妹の次女。
パコとは幼馴染。幼馴染・・・だけじゃないんだなぁ・・・これが。
とある秘密があるんですわ。あるんですわ。
ハビエル・バルデム:パコ
ラウラ(ペネロペ)のスペインの実家の近所に住むラウラの幼馴染。家族ではない。
ラウラの一族から買い取った土地でのワイン製造業で成功しており、妻のベアともイチャイチャと順調な生活を送っているのだが・・・・。
やはりこの夫婦も、誘拐事件からなんだかおかしくなってくる。
実生活ではペネロペの夫!濃い夫婦!!
横顔が不思議!なんか鼻が高いんだか低いんだか。
リカルド・ダリン:フェルナンド
アルゼンチンに住むラウラの夫。ある事情でラウラの妹の結婚式には姿を見せず。
ラウラの故郷にある教会の改修工事に資金を寄付するなど、仕事も順調にいっていると思われているが・・・。
バルバラ・レニー:ベア
パコの妻。
少年更生施設で働いている。
エルビラ・ゲス:マリアナ
ラウラの姉。娘を誘拐されたラウラを献身的に支える。
カルラ・カンブラ:イレーネ
ラウラの娘。ラウラと共に結婚式に出席するためにスペインへやってくるも、同年代のパコの甥とイチャイチャしてばっかり。
しかしパーティの最中に何者かに誘拐される。
●サラ・サラモ:ロシオ
マリアナの娘。ラウラの姪にあたる。
幼い子供がいるが、旦那とは離婚を考えている。
映画『誰もがそれを知っている』感想
84点
ペネロペ・クルス&ハビエル・バルデムの夫婦共演!
『誰もがそれを知っている』の見どころといえば、真っ先に挙げられるのがペネロペ・クルス&ハビエル・バビデム夫婦の共演!
1992年の『ハモンハモン』で初共演、2008年にも『それでも恋するバルセロナ』で再び共演し、2010年に結婚した二人。
その後『悪の教典』(2013)でも共演するなど仲睦まじいお二人ですが、元々アスガー・ファルファディ監督とペネロペ・クルス&ハビエル・バルデムが友人だったこともあり、今回の四度目の共演が実現しました。
そんなに同じ現場にいてもやっていけるって相当仲良いんだなーって思いますが、アサミヤ&旦那もフリーランスでずっと同じ家で仕事しながらも仲睦まじく過ごさせて頂いているので、そう考えると親近感湧きますね(無理やり)。
これからは旦那のことをハビエル♡って呼んで過ごそうかなと思います。
そんなことは置いといて、ハビエル・バルデムといえばコーエン兄弟監督の『ノーカントリー』(2007)の殺人鬼役の怪演が強烈に印象に残っています。
このおかっぱ頭に張り付いた表情。
そして殺し道具は酸素ボンベが付いた家畜用の銃。
牛を一発で安楽死させられる威力抜群の道具なんだけど、銃じゃなくてわざわざボンベをぶら下げて歩く手間を考えると狂ってるとしか思えない。
そんな変態キャラを見事に演じ、2008年のアカデミー助演男優賞を受賞されています。
一癖ある俳優さんのイメージなだけに、『誰もがそれを知っている』でのブドウ農園を営むフツーーーのおじさん役のギャップがすごい。
それでもシリアスなシーンでの苦悩する演技は凄みがあって、やっぱりこの人、纏う空気からしてすごい俳優さんだわって思いました。
幼馴染役で主演しているペネロペ・クルスも、どちらかというとアクションやお色気な映画に出ているイメージなので、今回のすっぴんに近い薄メイクで娘を心配する母親役を演じているのが意外。
この二人がスクリーンに映ると、夫婦役ではないのに濃ゆい繋がりが感じられるほどばっちりお似合いで、「絶対過去になんかあったやんこの二人!!!」って突っ込みたくなるくらい。
これはネラバレじゃないので書きますが、ラウラとパコは昔恋人だったことがあるので、このキャスティングはぴったりだったんじゃないかと思います。
夫婦共々ステップアップしてるのがすごいなって思うし、なんとなく嫉妬しちゃう。
他のキャストだって凄みがゴイゴイす!
そんな魅力たっぷりの主演二人ですが、脇を固める俳優さんも要注目!
ペネロペ・クルス演じるラウラの旦那のアレハンドロ役に『人生スイッチ』や『しあわせな人生の選択』のリカルド・ダリン。
アルゼンチンで最も有名な俳優さんで、アカデミー賞受賞作品にも出てる実力派。
誘拐された娘を心配してアルゼンチンからスペインまで飛んでくるも、ただただ神に祈ってばかりの無力な人物を演じています。実は彼、かつてお酒で狂ってしまった人生を、神によって救われたと考えているんですね。
うなだれてばかり&神様神様ばかり言っててうざがられるんだけど、ラウラのとある秘密を知っていながらも献身的に支えようとする姿には愛着さえ湧きます。
そしてラウラの姉を演じるのが、同じく『人生スイッチ』や『チェ 28歳の革命』のエルビラ・ミンゲス。
↑めっちゃパティ・スミスやん。
ペネロペ&バビエルの存在感で霞んでしまいがちですが、崩れゆく家族関係を支えようとする三姉妹の長女役を力強く演じています。
その他、ラウラの父役のラモン・バレアやパコの妻役のバルバラ・レニーなど、複雑な感情が入り乱れる人物をみんなが見事に演じていてアスガー・ファルハディ監督お得意の重厚な家族劇を支えています。
イラン映画って馴染みないけど・・・
アスガー・ファルファディ監督はイランを代表する監督であり、今までもイランの実情を切り取ったような作品を多く生み出してきましたが、今作『誰もがそれを知っている』では初めてイランを飛び出し全編スペインで撮影されています。
というのも、『誰もがそれを知っている』の着想を得たのが15年前にスペインで目にした、行方不明になってしまったある子どもの写真からだったのだとか。
きっかけを与えてくれたスペイン以外での撮影は考えられなかったとのことですが、スペインのカラッとした風土を活かしつつ、それまでも監督が描いてきた家族間の複雑な人間模様が抒情詩のように描かれていて、アスガー・ファルハディ監督の作品を一つも観たことがなかった私がいうことではありませんが、集大成なんじゃないかと思います。
そもそもイラン映画に触れたことがなかったんですが、イラン映画は世界的にも評価を得ているものの、制作の自由はあまりないらしく、世界でもワースト10に入るほど厳しいそうです。
だからかはわかりませんが、子供を主役にした作品やイランのリアルな実情を描いた作品が多いようです。
アスガー・ファルハディ監督の前作『セールスマン』では、暴行された女性が訴えを断念する姿が描かれていますが、そこにはイスラム法「シャリーア」が絡んできます。
なんでも「シャリーア」では女性の命の価値は男性の半分なんだとか。
だから女性から男性を訴えることがとても難しいらしく、訴えを断念せざるを得ない実情があるらしいです。
日本でも暴行された女性は世間の目もあってなかなか声を挙げづらいのが現実ですが、法律によってさらに縛られているイラン女性はさらに悲劇としか言いようがない。
そんなリアルな社会を知ることができるイラン映画、どんなニュースを見るよりもずっと価値があるのではないでしょうか。
そんなイランの実情を描いてきたアスガー・ファルハディ監督ですが、前述したように初めてイラン以外の国で撮影されています。
だからこそ今回はその国に根付いたリアルな問題を描くのではなく、より人間模様にフォーカスした展開になっています。
誘拐という一つの枠がありながらも、ただのサスペンスではなく、誰の身にも起こりうる問題が描かれていると思います。
崩壊する家族
映画は、スペインの田舎町の結婚式に集まった大家族を描くところから始まります。
前半30分は過剰なほどに幸せな人たちが描かれ続けるのですが、パーティの最中に起こった誘拐事件を機に、良好に見えた人間関係が崩れ始めます。
全部ウソだったのか、うわべだったんじゃねーかと疑いたくなるほどに次々と出るわ出るわ、家族間の不平不満!!
例えば、実際には家族ではないのですが「家族同然」で結婚式にも参加し、ラブラブだったパコと妻のベア。
しかし誘拐事件が起こった後は変わってしまいます。
少年更生施設で働くベアに対し、「誘拐は施設の子がやったんじゃないか」と偏見ギンギンで疑いをぶつけるパコ。
ラウラの父親(ヨボヨボのおじいちゃん)もパコに対して、「元々うちが所有していた土地をお前が無理やり買い取ったんだ」とかいちゃもんをつけ始める始末。
ただの頑固じじいの戯言かと思いきや、実はラウラの家族全員がそう思ってた・・・っていう悲しい現実。
見てるこっちが嫌になるぜ・・・。
きっとみなさんもありますよね。
表面上はうまくやってるけど、その奥底ではドロドロとした感情が渦巻いてること。
それはきっと、家族だからといって許せるものではなかったり、あるいは家族だからこそ嫌な感情が沸き起こってしまって、それを抑えつけようとすればするほど気持ちはどんどんドロドロしてしまったり・・・。
そんな嫌〜〜な雰囲気を感じさせつつも、昼ドラのような不快な映像にならない、ギリギリのラインで描いているアスガー・ファルハディと演者たちはやっぱすごいなと思いました。
アスガー・ファルハディ監督が本当にうまい監督だなと思ったのは、少しずつ崩れゆく人間関係をただ形式的にあからさまに見せるのではなく、どことなく不穏な空気を要所要所に散りばめているところ。
オープニングでの時計台の歯車や外に出られない鳩の描写、結婚式後に幸せそうに街を闊歩するラウラたちを見つめる現地の人たちの、どこか憂いや蔑みを含んだような微妙な目線。
パーティを楽しむ人たちからゆっくりと遠ざかるドローンの俯瞰目線の映像。
これから起こる家族の崩壊をセリフなどで説明するのではなく含みを持たせた画をさっと差し込むことで見せる手腕が、やはり巨匠と呼ばれる所以だなって思いました。
2回見るべきですぞ
初めて拝見したアスガー・ファルハディ監督作でしたが、スペインの風土の乾燥した空気感とそこに潜んでいる不穏な空気がヒリヒリと伝わって来るような重厚な作品でした。
主演のペネロペ・クルスとハビエル・バルデム夫婦の演技は流石の出来で、その喪失感や焦燥感で息が詰まりそうになりました。
誰が犯人か?というのはもちろんネタバレはしませんが、そこはあまり重要ではないような気がします。
いや、重要か・・・? そりゃ重要やな・・・もちろん・・・。
でもそれよりも、ラウラとパコの過去の秘密が一体なんなのか、そして実はそれをラウラの夫のフェルナンドのみならず全員知っていたということが映画の後半でわかると、一気にこの映画の筋書きが違ったものに見えてきます。
そう、タイトルの通り「誰もがそれを知っている」んですよ。
このタイトルが実は最大のネタバレであり、この映画の醍醐味なんじゃないかと思います。
二度目の鑑賞ではぜひ、その秘密を「この人ら全員知ってるんやなぁ」という目線で見てみてはいかがでしょうか。登場人物のちょっとした行動に意味が出てきたり、あるいは「この人実は全然関係ないのに疑われてかわいそう」とか思ったり、何倍もこの映画を楽しむことができると思います。
1回目の鑑賞ではただただ情けなく思えていたラウラの夫フェルナンドも、実はそれだけではなかったり。
ってかまぁぶっちゃけ「あれなんやったんやろ」と思うことが、1回目の鑑賞ではたくさん残ります(笑)
そして!ぜひ2回見て欲しいと思う最大の理由があります。
それは・・・登場人物が多い上に似すぎてて誰が誰だかわからん!
からです・・・。濃い!全員が濃い!男大体髭生えとるし!
←多い。
初見だと、中盤から後半にかけてやっと
「あ、この人がペネロペのお姉ちゃんで、さっきの女の子のおかんなわけね」
とか
「ずっと家におるこのおっさん誰?あ、この人の旦那?」
とわかってくる感じなのです・・・。
ぜひとも、誰が誰だかわかった状態で二度鑑賞されることをお勧めします。
家系図を書いておくともっといいですぞ!!
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★同じくイラン人監督作品。
イラン社会を切り取りながら、ユーモアに満ちた作品。
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