映画『デッド・ドント・ダイ』レビューとイラスト※ネタバレあり

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映画『デッド・ドント・ダイ』概要・あらすじ・キャスト

概要

映画『デッド・ドント・ダイ』感想

89点

こんちゃ!アサミヤです。

コロナの影響でずっと映画館に行けない日々を送っておりましたが、私の大好きなジム・ジャームッシュ監督の新作『デッド・ドント・ダイ』が公開されるということで久々に劇場に行ってまいりました。

ジム・ジャームッシュと言えば、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』や近年の『パターソン』のように、緩いオフビートなタッチが持ち味の監督。

何か事件が起きそうで起きない緊張感をたまに孕みながらも、ユーモア溢れるキャラクターや台詞回し、ウェットな間にジム・ジャームッシュ独特の空気が流れる心地よい作品が多いのですよ。

以前『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』でヴァンパイアが主役の作品も作ったりしていましたが、現代の世界で人間を襲わずに血を手に入れながら生きながらえるヴァンパイアたちの生活をスタイリッシュに描いていて、世間でのヴァンパイア映画のイメージとはかけ離れた作品でございました。

そんなジム・ジャームッシュ監督がゾンビ映画を作るだと!?
はじめニュースを聞いたときはビックリして耳を疑いましたよ。

ゾンビものといえば大概はサバイバルもの。
ゾンビパンデミック後の世界でどうにか生きながらえる為に人々が協力したり争ったり、ゾンビに喰われたりキルしたり・・・。

中にはゾンビと人間の少女が恋に落ちる『ウォーム・ボディーズ』やミュージカルベースの青春ゾンビ映画なる『アナと世界の終わり』など、今や様々なテイストのゾンビ作品は出ていますがね、その中でもジム・ジャームッシュ監督の作るゾンビ作品はイメージできないくらい異質なわけですよ。

ゾンビ映画と言いながら、実はゾンビ出てこないパティーンなんじゃんないかなんて思ってましたよ。

 

ところがね、実際観てみたら、しっかり古典的なゾンビ映画をやりつつ、しっかりちゃっかりジム・ジャームッシュテイストを盛り盛りに盛り込んだ超面白いゾンビ映画じゃないですか。

心配して損したぜ。

 

舞台は警官が三人しかいないアメリカの田舎町。

ダイナーである日肉を喰いちぎられた従業員の死体が見つかり、ビル・マーレイ演じる警察署長のクリフとアダム・ドライバー演じる巡査のロニーが現場に駆けつけるんですがね、死体を見てロニーは唐突にこう言い放つんですよ。

「ゾンビの仕業だ。」

おお、いきなりゾンビ言いやがったよ、ってびっくりしちゃったよね。

普通ゾンビ映画と謳っていても、劇中で登場人物たちがゾンビだと認識するまでは時間がある程度必要じゃないですか?

でもロニーは死体を見ただけで、全くゾンビらしい人影を見たわけでもないのにそう言い放つんだから物わかりがいいのなんの。

老いぼれおじじ風のクリフは「頭大丈夫かい?」的な感じで聞く耳を持ちませんが、町の住人たちの間ではあっという間にゾンビの仕業説が広まり、武器を持って立て篭もるものも出てくる始末。

しかし、実際にゾンビの姿を住人たちが目にするまでの時間が結構長い。

クリフとロニーをメインに、森の中で生活する世捨て人、雑貨店のオタク男子、少年院の仲良し男女、新しく葬儀場にやってきたミステリアスな女主人など、それぞれの日常をジム・ジャームッシュらしいオフなビートで描くもんだから、ゾンビ映画らしいハラハラ感はほぼなし。

それでもやはりジム・ジャームッシュらしい、何かが起きそうで起きないという画面越しに潜む緊張感が功を奏してホラー作品としての体もしっかりなしているのはお見事。
背景に流れる重苦しい音楽も相まって、徐々にゾンビ映画らしくなっていく過程は軽いカタルシスがありましたよ。

 

ちなみに音楽はジム・ジャームッシュ監督自身のバンドSqurlが担当しているそうな。

音楽といえば『デッド・ドント・ダイ』をタイトルとした主題歌が劇中でも重要な位置づけで流れるんですが、こちらはスタージル・シンプソンというカントリー・シンガーに監督自身が頼んで作ってもらったそうな。

印象的なシーンとしては、序盤で巡回する車中に流れる『デッド・ドント・ダイ』を耳にしたクリフが「なんか聴いたことあるなぁ、なんでやろ?」と口にすると、横にいたロニーが「テーマ曲やからやで」と言う衝撃的な展開w

その後も「台本読んだから絶望的な展開は知ってる」やら「ジムのやつ(監督)め、俺には登場シーンしか見せなかったのに!」なんていうセリフが出てきたりして、やりたい放題。

こんなにメタなことをやるとは、ジム・ジャームッシュ、いい意味で裏切られたぜ。
あ、あとアダム・ドライバーのキーホルダーがスター・ウォーズだったのも素直に笑っちゃったね。

果てには葬儀場の女主人のティルダ・スウィントンが宇宙船に乗ってどっか行っちゃうっていうもうわけのわからん展開に!

いやぁ、これは想像を絶するコメディでした。

 

肝心のゾンビたちは、墓場から蘇るノロマで古典的な存在でありながら、「ギター」や「オモチャー」など生前に求めていたものを口にすると言う、どこか『アイ・アム・ア・ヒーロー』を彷彿とさせるファニーで新しいゾンビ像でした。
一番ツボったのは「ムリョウケーブルー」って言いながら近づいてくるゾンビねw
そんなにケーブルテレビ好きだったんだね、ってなんか愛しくなっちゃうよね、もう。

ジム・ジャームッシュ監督としては現代の人たちがスマホやテレビなどに毒されていたり、物質主義に走っていてまさしくゾンビのようになっているんじゃないかという思いを反映しているらしく、「Bluetooth」や「Wi-Fi」なんて口にするゾンビも登場させている。

ゾンビ映画の祖であるジョージ・A・ロメロ監督(今作にも名前がちらっと出てくるよ)も作品の中に大量消費への批判を含ませたとか言ってましたが、ジム・ジャームッシュ監督のわかりやすすぎる演出は逆にコメディに転じてて説教じみてないのがイイね、うん。

 

そんなメッセージ性も含まれつつも、徹底してコメディテイストで作られた『デッド・ドント・ダイ』。

ビル・マーレイアダム・ドライバースティーブ・ブシェミダニー・グローヴァーケイレブ・ランドリー・ジョーンズセレーナ・ゴメスや、ジム・ジャームッシュ常連組のティルダ・スウィントンイギー・ポップトム・ウェイツなど、豪華な出演人を見てるだけでも大満足!

(個人的にトム・ウェイツがどんな役で出るのか楽しみで、「いつになったら出てくるのかなー」と待ってたんですが、初っ端から出てた森の世捨て人おじさんだったと中盤で気付いてちょっと愕然としたよ・・・馴染みすぎやで)

サバイバルテイストのゾンビものを期待してみると肩透かしに終わると思いますが、オフビートな空気感が好きな方にはたまらん世界観やと思います!

ぜひご覧ください!

 

アサミヤカオリ

イラストレーター/造形作家/映画コラムニスト/漫画家

大阪出身。
2018年より徳島に拠点に移して活動中。

AWAP『映画コラム』/ BRUTUS『赤恥研究所』連載中
B級映画/ラジオ/観葉植物好き。最近は20時半就寝4時起きで制作がんばってます。メキシコ行きたい。

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ゾンビコメディ
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