ラストに思う。「かっこよすぎるよ、あんた」映画『おんどりの鳴く前に』(2025)レビューとイラスト

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概要・あらすじ・キャスト

概要

ルーマニアの辺境の村を舞台に、狭いコミュニティ内で起きた殺人事件を通して人間の醜悪さを生々しく描いたサスペンス映画。
ルーマニアの若手監督パウル・ネゴエスクが、欲望と正義の狭間で揺れる主人公の葛藤を、社会風刺を交えながら巧みに表現。ルーマニアのアカデミー賞にあたるGOPO賞で作品賞・監督賞・主演男優賞など6冠に輝いた。(映画.comより)

あらすじ

ルーマニア北東部モルドバ地方の自然に囲まれた静かな村。野心を失い鬱屈とした日々を過ごす中年警察官イリエは、果樹園を営みながらひっそりと第2の人生を送ることを願っていた。そんなある日、平和なはずのこの村で、斧で頭を割られた惨殺死体が発見される。捜査を任されたイリエは、美しい村に潜んだ闇を次々と目の当たりにしていき、やがて驚くべき結末にたどりつく。(映画.comより)

キャスト

監督:パウル・ネゴエスク

出演:ユリアン・ポステルニク
   バシレ・ムラル
   アンゲル・ダミアン

感想

ルーマニアの田舎町を舞台に、腐敗した政治や渦巻く欲望と自らの正義の狭間で揺れる警察官イエリの姿を描いた今作。

何か重厚なものを観たい・・・普段はサクッと人が死ぬようなB級ばかりを味わってきた私が珍しく選んだシリアスな作品がコレ、なのですが、いやぁ想像以上に濃厚テイスティングで舌先・・・いや、頭と心が痺れました。

緑豊かで、あちらこちらに牛やら鶏やらが放牧されているルーマニアの田舎町ってのが見目麗しく、それなのにそれなのに、いつだって陰鬱でうだつの上がらぬイリエという男が主人公なんだなんて・・・もうどこぞのアイドルばかりがチョイスされるルッキズム主義な邦画に爪の垢煎じて飲ませてあげてよ!と思わずにはいられないほどの人選
(いや、ルーマニアでは大人気なんかもしれんし、普段はたぶんスラッとイケメンなんだろうけど)。

とにかく人も物語もパッとしない(ひどい)。

正直地味(ひどいひどい)。

田舎町の腐り切った村長やらお付きの神父やらがいざこざを揉み消そうとする・・・ありがちよねー。

長年村に勤めてきた警官に、欲しがってた果樹園の権利書ぶら下げて、「いや、他意はないのよ、他意は。ただもう邪魔になるだけだからさぁ」なんつって譲渡して見逃してもらおうとする、この腐り切った性根がよぉ!!

もうこの村長も神父も見るからに悪人なんだから(これもある意味ルッキズム発言ね)。

ストーリーに目新しさなんて正直ない。

だけど、最後の乾いた男の戦い。

淡々と、BGMもなく派手なアクションもない。

痛手を負ったイリエは声もなくうめくだけ。ただそれが超リアル。

思えばずっと、鮮やかすぎる景色の奥の方から死の匂いが漂っていたな。

拭っても拭っても、土の中から立ち上ってくる染み込んだ死の匂い。

それが濃密になるラスト、まじで最高に良いのよ。

本当に地味すぎて苦手な人も多いかも知れないなぁ。

ルーマニア版『その男、凶暴につき』って感じ。

北野武作品が好きな人は絶対刺さると思う。

ずっと「パッとしねぇなぁ主人公」って思っていても、最後の最後に「うん、ごめん、あんたかっこいいよ」って言うよ、絶対。

そう、かっこいい作品だった。

報われる報われないとかじゃなくて、かっこいい男を見る作品だった。

アサミヤカオリ

イラストレーター/造形作家/映画コラムニスト/漫画家

大阪出身。
2018年より徳島に拠点に移して活動中。

AWAP『映画コラム』/ BRUTUS『赤恥研究所』連載中
B級映画/ラジオ/観葉植物好き。最近は20時半就寝4時起きで制作がんばってます。メキシコ行きたい。

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