映画『イット・カムズ・アット・ナイト』レビューとイラスト※ネタバレなし

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Amazon | イット・カムズ・アット・ナイト [DVD] | 映画
ジョエル・エドガートン, クリストファー・アボット, カルメン・イジョゴ, ケルビン・ハリソン・ジュニア, ライリー・キーオ, トレイ・エドワード・シュルツ 邦画・洋画のDVD・Blu-rayはアマゾンで予約・購入。お急ぎ便ご利用で発売日前日に商品を受け取り可能。通常配送無料(一部除く)。

こんちゃ!アサミヤです。

前回のレビューから時間が経ってしまいましたが、今回もGAGAさんからご依頼を頂いた最新作のご紹介です。

今までは東京まで出向くことができずにDVDでの鑑賞でしたが、なんと今回東京は青山にあるGAGAさんの試写室にて鑑賞して参りました!
一等地の青山ですよ、おしゃれウーマン&メンが行き交う都会ですよ。
「わたしは都会に住み慣れたオンナよ」顔をしながら内心ドキドキで向かいましたよ。

そして鑑賞したのが11月23日公開の『イット・カムズ・アット・ナイト』

早朝5時起きで飛行機に飛び乗って東京にやってきた身としては、いつ寝落ちしてもおかしくないほどの静かなサスペンスホラー・・・。

しかし!大好きなジョエル・エドガートンが主演であり、何より「”イット“て何やねん!」という好奇心で92分、全く寝落ちせずに鑑賞できました。
出てくるキャストがとてもミニマムでありながら、みんな素晴らしい演技力なので一瞬たりとも目を離せないのもこの作品の魅力。

”イット“とは何なのか、ネタバレせずにレビューするのは中々難しいのですが、作品の魅力をみなさまにお伝えしようと思います!

『イット・カムズ・アット・ナイト』 概要・あらすじ・キャスト

概要

監督は、長編デビュー作となった『Krisha』で新人賞を多数受賞した1988年生まれの新鋭トレイ・エドワード・シュルツ。ジョン・ウォーターズ監督が選ぶ2016年の映画ベスト1に選出され、全米のインディペンデント映画界の話題をさらった彼が、新作『イット・カムズ・アット・ナイト』で選んだテーマは、2つの家族の内外に潜む、死、恐怖、後悔という暴力的な感情。ジョエル・エドガートンをはじめとする映画界最前線の演技派たちが集結し、多彩なキャストによるそれぞれの感情が崩壊のスケールを増幅させ、観る者を心理的に追い詰める世界を作り上げた。(公式サイトより)

あらすじ

夜襲い来る“それ”の感染から逃れるため、ある一家が森の奥深くにある一軒家に、外界との接触を断ちひっそりと暮らしていた。しかしある日、そこに別の家族が助けを求めて転がり込んでくる。うまく回り始めたかに見えた2組の家族の共同生活。しかしある夜、固く閉ざされていた禁断の赤いドアが開き、彼らの静寂が破られる…(公式サイトより)

スタッフ

監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ

キャスト

ジョエル・エドガートン:ポール

一家の父。
家族を守りたいという気持ちが先走り、狂気にも見える行動を取ることも。

家族以外は一切信用していない。

●カルメン・イジョゴ:サラ

ポールの妻。
旦那に忠実でありながら、息子トラヴィスのことを第一に考えている優しき母。

●ケルビン・ハリソン・ジュニア:トラヴィス

ポールとサラの息子。17歳。
一匹の犬スタンリーが相棒。

新しく招いたポール一家に興味津々で、行動を観察している。

クリストファー・アボット:ウィル

食料を求めてポールの家に侵入した男。
ポールと違って自由奔放に生きるが、何となく言ってることが嘘っぽい。

●ライリー・キーオ:キム

ウィルの妻。
溌剌とした若々しさでポール一家に安らぎをもたらす美しき女性。

『イット・カムズ・アット・ナイト』感想

80点

魅力的なキャスト

あらすじを簡単に書くと、正体不明のウィルスで壊滅状態になった世界を舞台に、平穏に暮らしていた一家に突然訪れた新たなる家族がもたらす不安と亀裂。それが徐々に大きくなってゆき・・・というとてもミニマムな世界観。

それを圧倒的な演技力と存在感で説得力ある緊迫した画に仕立て上げる俳優陣がこの映画の肝でもあります。
というか、彼らでなければこの映画は成り立たないんじゃないかと思うほど、演技力がものを言う作品でした。

簡単に俳優陣のご紹介をしたいと思います。

ジョエル・エドガートン

一番のキーマンは、2015年に『ザ・ギフト』で監督デビューも果たしたジョエル・エドガートン

私自身、ジョエル・エドガートンを認識したのが『キンキー・ブーツ』や『ティモシーの小さな奇跡』といったライト目な作品だったのですが、最近は『ゼロ・ダークサーティ』(12)や『ブラック・スキャンダル』(15)『レッド・スパロー』(18)など、重めな作品が目を引きます。
監督作である『ザ・ギフト』も中々後味の悪いサスペンスだったので、ジョエルさんは重め志向なのかもしれませんね。
何より実力派って感じの俳優さんです。

今回は家族を過剰なまでに守ろうとする一家の父ポールを演じていますが、鬼気迫る演技に目を奪われます。
妙に垢抜けない芋っころさが、よりリアルです。(そこが好き)

カルメン・イジョゴ

ポールの妻を演じたのはカルメン・イジョゴ

『ブルーに生まれついて』(15)でイーサン・ホーク演じるチェット・ベイカーの妻を演じていたり、アカデミーノミネート作品『グローリー/明日への行進』(14)にも出演している実力派女優さんです。
今作では旦那に忠実でありながらも、息子への愛情に溢れたよき母を演じています。

クリストファー・アボット

ポール一家の家に押し入るウィルを演じたのはクリストファー・アボット

大人気の海外ドラマシリーズ『Girls /ガールズ』でブレイクした甘いマスクの俳優さんです。
今作では厳格なポール一家とは違い、解放的な家庭を築きながら妻や息子を愛する父を演じています。

ライリー・キーオ

ウィルの妻を演じるのはライリー・キーオ。
エルヴィス・プレスリーの孫という羨ましすぎる家系でありながら、女優としての実力は確実なもの。
画面に映った瞬間空気が張りつめるような凛とした美しさを持っています。

同じくGAGA配給の『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18)でも男性を惑わす魅力的な女性を演じていましたが、今回は17歳の男の子の心に潤いを与える一輪のひまわりのような女性を演じています。

映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』レビューとイラスト※ネタバレあり
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監督

監督は若干30歳のトレイ・エドワード・シュルツというお方。
長編デビューは2016年の『Krisha』という作品で、アメリカン・インディペンデント・フィルム・アワードでは作品賞など5部門で受賞しているほど、これから期待大の監督なんです。

『Krisha』はyoutubeでも観れますが、日本語字幕がないので私自身は拝見しておりません。
なんでも「ある日突然疎遠だったアル中の母親が訪れ、平穏な日々に波紋を投げかける」という内容らしいです。

実は監督の叔母は薬物中毒であり、ある日突然パーティに乱入したと思ったらその数ヶ月後に亡くなり、父はアルコール中毒で何十年ぶりに再会したときにはすでに死の床だったとか・・・。
なんて壮絶な人生。
その体験が大きく反映された作品のようです。

平穏な日々が招かれざる客の訪れによって崩れていく・・・・それは『イット・カムズ・アット・ナイト』の主題でもあります。

そしてオープニングで描かれる父との死は、まさしくトレイ・エドワード・シュルツ監督自身が父を看取った時の死に対する畏怖の念を描いています。

ものすごく監督のパーソナルな部分を描いた作品だと思うので、正直「ナニコレ全然理解できない」とおっしゃる方も少なからずいるでしょう。

しかし、『Krisha』と『イット・カムズ・アット・ナイト』に共通する、正確なカメラワークと大事なシーン(ポールがウィルを問い詰めるシーンなど)での長回しなど、緊張感を高める画角の使い方が超絶上手いので、ぜひそこに注目して観て頂きたい。

具現化した形あるものではなく、画面全体から滲み出るような恐怖が体感できますよ。

“イット”とは何なのか?

“イット”と付く作品といえば『イット・フォローズ』『IT /イット“それ”が見えたら終わり。』、明らかに有名作品からタイトルを拝借した『ドント・イット』など、ホラー作品では”イット”と名のつくものが横行しています。

※ネタバレあり 映画『ドント・イット』レビューとイラスト
シッチェス・カタロニア国際映画祭で作品賞を受賞していたり、世界のいろいろな(聞いたことのない)映画祭でたくさん賞をとっているこの作品。2018年1月に「未体験ゾーンの映画たち2018」で日本公開され、先日レンタルがスタートしたばかりです。 邦題タイトルの雑さ(ドント・ブリーズとITかな?)とか、各レビューサイトでなかなか壮絶に低い点数を叩き出しているところなどで逆に興味が湧いて拝見しました。 下が...

なぜそれらがヒットし、人々は惹きつけられるのか?
思うに“イット”の正体を見たいという興味本位と、「ゾンビ」や「吸血鬼」といったすでに存在するモンスターとは違う恐怖の対象が観れるのではという「新奇性追求気質」が刺激されるからではないでしょうか。

では今作『イット・カムズ・アット・ナイト』ではどんな恐怖の対象が現れるのか!?

ネタバレになるので明確には書きませんが、

いわゆる「ホラー映画」は期待しないほうがいいです。

今作が賛否両論なのは、“イット”の正体を期待して観た人たちが想像とは違う“イット”の描かれ方をしているからなんだと思います。
私自身も鑑賞後、「あれ・・・“イット”ってもしかしてそのことやったん!?」みたいな腑に落ちない状態でした。

しかし、考えれば考えるほど、監督が描きたかったものは“イット”の正体ではなく、それに直面した時に歪みが生じる人間の心理であったり、過剰に家族を守ろうとする父への畏怖といった息子の心情など、心理描写だったのではないかと思えるようになりました。

そしてそれは、ひょっとしたら「ホラー映画」の本質だったりして・・・?

ホラー映画の本質

『イット・カムズ・アット・ナイト』を鑑賞したきっかけに、「ホラー映画」とは何なんだろうか?ということをうっすら考えてみました。

ホラー、すなわち「恐怖」は、あらゆる動物が持つ感情ですよね。
昆虫や魚が恐怖を感じているかについては議論があるようですが、例えばネズミやウサギくらいになれば、自らに害をなすおそれがある存在を目にすれば「恐怖」を感じ、逃げるか、もしくは戦おうとします。
つまり、「この敵はやべぇ」「死ぬかもしんねぇ」という想像力が働いていると言うことだと思います。

実際には言葉で考えてるわけでもないですし、本能的に危機を感じているだけなのかもしれませんが、とにかく彼らも少なからず「予期」がある上で防衛しようとしているはずです。

フィクションの恐怖

高度に脳を発達させた我々人間様ともなれば「フィクション」の中で恐怖を感じることができます。

バンジージャンプで恐怖を感じるのはリアルなので当然です。
お化け屋敷は、おばけやモンスターそのものももちろん怖いのですが、むしろ(彼らがスタッフであることは知ってますし)ドン!っと突然それが飛び出てくる「かもしれない」ことへの恐怖ですよね。
びっくりすることで心拍数を上げられてしまう感じ。たぶんお化け屋敷の中であれば、普通のサラリーマンや犬が急に走ってくるだけでも怖いと思います。ていうかむしろそっちのほうが怖いかも。

しかしフィクションの中では自分には実際には危害を加えられるわけではないのに、なぜ恐怖を感じるのでしょう?

ホラー映画の中で感じる恐怖や、緊迫感、もしくは高いところから落ちそうになっている主人公を見てハラハラする感じ。すべて自分に実際に降りかかっているわけでもないのに、しっかりとその感情を共有することができます。(もちろん主人公本人ほどリアルではないにしろ)

「フィクション(虚構)の共有が現生人類を進化させた」「抽象概念の想像力」とか言い出すと、「ホモ・サピエンス全史」の話をしないといけないのでやめます。

それを可能にしているのはやはり想像力なんだろうと思います。

「もし自分や自分の大切な人がこうなったらどうしよう」
「自分の家のテレビから女の人が這い出てきたらどうしよう」
「あんな風にナイフを突きつけられたらチビる」

と、想像すればするほど恐怖は増していきます。

ピエロに対してなんとなく不気味な恐怖を感じる人は多いですが、その理由は

  • まず、派手な衣装による非日常性
  • 常に笑顔のため表情が読み取れない
  • 次にどんな行動をとるかわからない

からなんだそうです。

つまり、ピエロに対峙すると、次に何をされるかわからない状態になるため想像力を異常に働かせないといけません。あとピエロって大体でかいし。

ピエロでなくとも、もし自分が街を歩いていて、前から仮面をかぶった人が歩いてきたら怖いですよね。

また、アメリカには人類が滅びた時のために準備をする、通称「Preppers(プレッパーズ)」という人たちが少なからずいるそうですが、なんと豊かな想像力なんだろうと思います。

例えば私の夫や猫もいつか死にますが、それを想像しながら生きていくことは辛いですよね。
できるだけそういうことは考えずに生きていたいと思いながらも、それを想像することでお互いをもっと大事にすることができるのかもしれません。でもやっぱ辛い・・・。

どうやって怖がらせるか

ホラー映画を作る側としては当然、モンスターや異常者など「恐怖の対象」を作り出して、それでもって観客を怖がらせないといけません。

しかし、それが「どれくらい怖い存在なのか」「いかにやべーのか」を観客にわからせるのは「襲われる側」「怖がる側」の出演者の仕事です。

例えば、ただただ異常な暴力性を持って一人で暴れまわる人物を描いたとしてそれは観客からすれば「恐怖」にはならないでしょう。
「ジョン・ウィック」という映画があります。異常なスピードでひたすら敵を銃で殺しまくる映画です。
あの映画では、殺される側の心情はほぼ描かれません。
よくよく考えればものすごいシリアルキラーの主人公ジョン・ウィックです。
殺される側からすればとんでもないホラーです。
しかし「怖がる側」が用意されていないため、観客からすればむしろ爽快です。

一方で、今でこそSFアクション(?)として語られる「ターミネーター」という映画は、80年代の公開当初は「ホラー」として世に出ました。
それもそのはず、「ターミネーター1」で描かれるのは「怖がる側」のサラ・コナーやジョン・コナーですもんね。「2」からはシュワちゃんのドンパチ映画になりますが・・・。

やはりホラー映画で一番怖いのって、殺人鬼でもゾンビでも吸血鬼でもなく、それと対峙した被害者側の恐怖に歪んだ表情ではないでしょうか。
『サイコ』(60)のジャネット・リーや『悪魔のいけにえ』(74)のマリリン・バーンズ、最近でいうと『ヘレディタリー 継承』(18)のトニ・コレットの顔など、観客に強烈な印象を与えるヒロインの顔です。

映画の肝として彼女たちの顔が使われるくらい、恐怖を煽る表情ですよね。

彼ら彼女らが、「どんな風に」恐怖を感じているか、「恐怖の対象」そのものよりも、「怖がる側」の複雑な感情表現によってそこ我々観客は想像力が働くような気がします。

この映画の「恐怖」

ネタバレしないといいつつ、重要なことを言ってしまいますが、この映画において「IT」すなわち「怖いもの」は、最後までよくわかりません。

主人公たちが何を怖がっているのか、よくわからないのです。
しかし、観客はしっかりとビクビクしますし、ハラハラします。

「何がおこるのかわからない恐怖」とか「殺されるかもしれない恐怖」よりももっと先の「何が怖いのかすらわからない恐怖」とでもいいましょうか。

「恐怖の対象」がいて「怖がる側」がいて、その「怖がる側」に感情移入することができるのが「ホラー映画」だと思いますが、そこからさらに「恐怖の対象」すらも明示しないという構造になり、より一層「恐怖そのもの」に焦点が当たるようになっているのだと思います。

「ドント・ブリーズ」という映画について、宇多丸さんが評していました。

・この映画は初めはハラハラドキドキの「スリラー」だが、後半は「ホラー」にツイストする

という構造上の妙に着目して評価されていたと思います。

その点でいうと、この「イット・カムズ・アット・ナイト」という作品は「ホラー映画」に本来あるべき「怖い何か」というものを思い切って切り捨て、こちらの想像力に任せてしまう構造によってより一層ホラー映画としての純度を高めているのではないでしょうか。

まとめ

今回「ホラー論」が長くなりましたが、私は『イット・カムズ・アット・ナイト』は時間が経てば経つほど、考察を重ねるほどに好きになっていった作品です。
ただ、単純にホラー映画を楽しみたいという方には『イット・カムズ・アット・ナイト』を心の底から楽しめないかもしれません。 

その場限りで楽しめるスカッとしたものをお求めの方は『シャークネード』でもご覧頂いたら良いのかなと思いますが、想像力に満ち溢れている方はぜひ『イット・カムズ・アット・ナイト』で恐怖を体感して頂きたいと思います。

映画館を出た後も尾を引く恐怖が味わえますよ!!

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