超カンタンあらすじコチラ↓
スコットランドのグラスコーで貧しい暮らしをするロビー。
彼女が妊娠しても暴力沙汰で捕まる始末。
社会奉仕を言い渡されたロビーは自分にウィスキーのテイスティングの才能があることに気づく。
映画『天使の分け前』感想
80点
★レヴューに入る前に、ウィスキーのお話ということでスコッチウィスキーを飲みながらの鑑賞がいかがでしょう?★
シングルモルト ウイスキー グレンフィディック12年 [イギリス 700ml ]
この映画はずっと前に観たのですが、なぜか心に残る作品でして。
はっきり言うけど、決して良い映画という枠には収まりません。
すさんだ生活をしていた青年がウィスキーと出会って自らを省みて更生していく・・・・・
なんて、日本人が好みそうな爽やかなサクセスストーリーではないんで。
もっと言ってしまえば”クズ”な人たちが”クズ”なことをして”クズ”なりにうまいことやり抜けるみたいな、本当”クズ”なお話と言ってしまえばそれまでよ。
具体的な内容を言いますと、ロジャーが社会奉仕をしている際に出会った監督指導役のハリーから、ウィスキーの魅力を教えられてさらにはテイスティングの才能まで開花させる。
そのテイスティングを活かして妊娠した奥さんの為に人生を改めるかと思いきや、子供と3人で暮らす為の資金集めに貴重なウィスキーを盗むという行動に出るのです。
後半はただの泥棒のお話。
社会奉仕で出会った仲間と行動を共にするのですが、その仲間もおバカな集まりなもんで
ユルユルな盗人集団。
途中、かつて暴力を振るった相手(そのせいで障害を持ってしまったらしい)と面談し、ロジャーが涙を流すシーンがあったりしましたが、余計にこの展開にはびっくら古今和歌集(脳みそ夫)。
それでもこの盗みは成功します。
大金をせしめて妻と嬉しそうに旅立つロジャーの姿でハッピーエンド。
ウィンクまでしちゃって”爽やかな気分でめでたしめでたし”・・・・
ってなるかい!
と観た方の大半は思うはず。
私も最初は呆然としました、この展開に。
でもなぜかずっと心に残ってる作品なのですね。
それはタイトルの「天使の分け前」というワードが関係してるのかもしれません。
「天使の分け前」とは「蒸留中に年に2〜3%蒸発する減り分」のことを言うのですが、とってもおしゃれな言い回しでしょ?
でもその「天使の分け前」を”盗んだウィスキーの取り分”としてこの映画では表現しちゃう。
なんてシニカル。
蒸発してしまうというマイナス面を天使への分け前という明るい表現に置き換えたこの言葉がそっくり映画のプロットと当てはまるのが面白い。
この作品を撮ったケン・ローチ監督は労働階級や移民の日常をリアルに描き出す作品を発表したり、イギリスをシビアな目線で捉えた作品が多いのですが、その監督が作ったコメディと考えれば展開にも頷ける気がします。
グラスコーはイギリスでも最も危険な都市とも言われているそうです。
そんな環境でテイスティングの才能があっても果たして活かせるだろうか?
日本であれば◯◯ソムリエみたいに肩書き作って職業としてやっていけるだろうけど、生きるか死ぬかの地域では無駄な才能と言っても過言ではない。
この映画はサクセスストーリーや再生の物語では決してなくて、グラスコーの若者の現状をコメディとしてアプローチしながらニヒリスティックに見つめる映画だと思うのです。
実際にロジャーを演じたポール・ブラニガンはそんなグラスコーの生まれで、この映画に出るまで素人さんだったのですよ。
なのでリアリティが半端ない。
顔についた傷も実際に喧嘩して出来た傷という話にはびっくら古今和歌集(しつこい)。
そんなリアルな彼らがいきなり更生して人生を真っ当に生きました・・・なんてストーリーが本当にリアルかい?
”盗みを働いてでも妻と子供と暮らしたい・・・それが僕たちの幸せなんだ。”
そんな声が聞こえてきそう。
自分目線で物事を判断することが間違っているのではないかと、最後のロジャーの爽やかなウィンクを観て思いました。
期待した通りのお涙頂戴映画ではないですが、だからこそ心に残る作品でもあります。
一風変わった気持ちになりたい方、おすすめです!
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★こちらもケン・ローチ監督作品↓
戦争の描写が辛く痛々しい・・・。
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